【0040】ものごとの順序と大小関係 おまけ

10-ビジネス法務11環境整備, 61契約手続き, 95こぼれ話, 99引用

【0036】から前回まで4回にわたって、項番の大小関係を扱ってきました。関連して実務で感じることを追記しておきます。

こぼれ話 ドラフトチェックの現場では

契約書のドラフトチェックというのは、法務の日常業務のひとつですが、(日野)側から出したドラフトについて、項番の振り方だけが直されて戻ってきたことがあります。

民法13条を例にして、書いてみるとこんな感じです。
黒文字が(日野)が出したドラフト案、赤文字が相手方の修正、です。

十三13条(保佐人の同意を要する行為等)

 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。(但書略)

  元本を領収し、又は利用すること。

 (第2号~9号略)

 家庭裁判所は、(以下、略)

この返しを見てどう感じるか、というと「ラッキー」というのが正直なところです。

なぜかというと、この修正では本質的なところは何も変わっていないからです。
端的にいうと、相手の法務はその程度のレベルだと判断できます。
そうすると(日野)としては精神的にとても楽になるわけです。

「今回は先方案を全面的に認めて(表記の変更に認めるもなにもないのですが)おいて、次はもう少し吹っかけてみようかな」などと悪だくみしたりします。

これは極端な例として、ドラフトチェックで特に変えるべきところがない場合どうするか。
(日野)は「すべてOK」とか「修正なし」で返しています。

修正点を見つけられないようでは法務担当者としての力量を疑われるのではないか、と心配する方もあるかもしれません。
でも逆なのです。

ドラフトを出すほうの気持ちを想像してみましょう。
対等関係とか、初めての取引のときとかは、ドラフトを出すほうも緊張するわけです。
そのドラフトに絶対の自信があれば別ですが、絶対の自信があるドラフトなんてあるのでしょうか。
だいたいドキドキします、「全否定されたらどうしよう」「全否定されたら自社側の担当者になんて説明しよう」と。

そんな思いで出したドラフトが「すべてOK」で返ってきたらどうでしょうか。

出した側からしたら、認めてもらえたような気分。あの有名なマズローの欲求五段階の「承認」欲求が満たされた気分になるわけです。
そういう良い気持ちになると、どうなるか。


交渉では、(…)特に自分の言ったことが相手に伝わっていないと感じると、何となく不快感を覚える。逆に、自分の意見が自分の言葉のまま合意案に反映されていたりすると、うれしくなったりもする。交渉を円滑に進めるためには、こういったところが意外と大事だったりするのだ。


交渉相手は、とにかく受け入れてもらいたいのである。交渉相手も、ノーと言われるのが怖いのである。だから取るに足らないことや、交渉とは関係のない雑談でも、できるだけ相手の発言を聞いてあげることが大切だ。そして共感できるときは、うなずいてあげればいい。(…)これは交渉ではとても大切な戦術である。

<田村次朗 他『交渉学入門』>

相手が自分のドラフティングに自信満々だとしても、一度「全容認した」という事実は残ります。
その実績は信頼関係につながります。
それは次回の交渉に有益です。
要求を出したときに「前回はこちらが折れたので今回はこちらの要求を呑んでくれませんか」など説得し始めるより先に、相手が譲歩してくる可能性が高まります。

大筋OKなら、多少の技術的な細かい論点は目をつむって、「修正ゼロ」で返すのもよいものですよ。

(追記)投稿当時は現在とちがい、管理人の名称は(準備中)でした。修正して現在の一人称である(日野)等に置換えをしています。


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