【0067】フレームワークとしての法的三段論法(前) 7 of 7
「法務担当者の業務に役立つフレームワークをまとめよう」をテーマとして、その第1号として紹介する「法的三段論法」の具体例は
“
(抽象的法規範:規範定立)人を殺した者は、死刑……に処す。
(具体的事実の認定:あてはめ)ブルータスはシーザーを殺した者である。
(法的結論:結論)ブルータスは死刑に処せられる。
<髙橋明弘 『法学への招待』>を基に(日野)が作成
”
その(日野)の考えがまちがいじゃない、独りだけの考えじゃないことの証明としていくつか引用してきました。さらに補強しておきます。
まず前段、
“
例えば、「被告人甲を懲役5年に処する」という判決が下される場合、単純化すれば、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」(刑法199条)という法規範が大前提であり、甲が実際に人を殺したこと、違法性や責任の阻却自由がないことなど、いろいろな証拠によって確定された事実が小前提である。
そして、この二つの前提から、「Aという事実があればXという法律効果が生じる」「しかるに当該事件はAである」「故にXという法律効果が生じる」という法的三段論法に従って、このような判決が結論として導き出され正当化されるということになる。<田中成明 「法学入門」>
”
(原文では少し離れたところにあるのですが)これに続けて、
“
もっとも、リアリズム法学などのように、裁判過程の非合理的側面を誇張する極端な見解はさておき、現実の判決作成過程が、三段論法方式に従って画然と区別された論理的順序に即して行われるものでないということは事実である。むしろ、たいていの場合、事実の認定、適用すべき法規範の選択、その意味内容の解釈など、判決作成における一切の活動は、相互に連関した一連の作業としてフィード・バックを繰り返しながら、徐々に確定され、最終的な判決に至るものだと言われており、このような説明はかなり広く支持されている。<田中成明 「法学入門」>
”
まとめ
このまま進むと話が広がるばかりなので、ここまでを一旦まとめておきます。
- 道具なら、中華の鉄人が使う鉄鍋とか字が上手い人が持つ万年筆のように、選び出した2~3のフレームワークを使い込み使いこなしていこう。ハンマーしかなくても誰も打てない角度で釘を打てればいいと思う。
- 所詮枠組み、所詮道具である。
- 現時点でも数百・数千とある、いま現在も増えている。すべてを使いこなすのは不可能。
- フレームワークとは、たとえばPPMなど、思考の枠組みである。
■ 法務担当者の三大フレームワーク第一号:法的三段論法
- 2~3選び出すとすると第一に「法的三段論法」
- 「法的三段論法」はこういうもの<髙橋明弘 『法学への招待』>を基に(日野)が作成
論理学上の三段論法 | 法的三段論法 | ||
(大前提) | すべての人間は いつか死ぬ。 | (抽象的法規範:規範定立) | 人を殺した者は、死刑……に処す。 |
(小前提) | シーザーは人間である。 | (具体的事実の認定:あてはめ) | ブルータスはシーザーを殺した者である。 |
(結論) | シーザーはいつか死ぬ。 | (法的結論:結論) | ブルータスは死刑に処せられる。 |
- 法的三段論法の各段階を見ていくと
「規範定立」の「規範」としては法律の条文が該当し、条文は「要件」と「効果」で構成されている。
その要件と効果のうち、要件を満たすかどうか確認する作業が第2段階「あてはめ」
第3段階では第1段階で提示した要件と効果(AならばCである)のうち第2段階で事実が要件に該当することが確認できた(BはAである)ので事実が効果を導く(だからBはCである)ことを宣言する
- 「規範定立→あてはめ→結論」は論理の順序。この順序でいくと都合が悪いときがあるので、現実の思考の順序は「結論→規範定立→あてはめ」
この「法的三段論法」がどういうもので、なぜ必要で、どう使えばよいのか、ということを書いていくのが今回のテーマでした。
このうち、「どういうもので」、「どう使うか」、ということをここまで書いてきました。
次回に残りの「なぜ必要か」という点を書きたいと思います。その上で法的三段論法を活用するために知っておくべき注意点について書いていきます。
(追記)投稿当時は現在とちがい、管理人の名称は(準備中)でした。修正して現在の一人称である(日野)等に置換えをしています。