【0155】読解力の向上に資すること、その手がかり 4 of 8
–前回までのあらすじ–
「読む」ということを深掘りするのであれば現代文読解に進めばいいところですが、ひと呼吸おき、まず俯瞰・鳥瞰してみます。分析の基本は、「大きさを考える」、「分けて考える」、「比較して考える」、「時系列を考える」の四つであって、このなかの「大きさを考える」こそが今やろうとしていることです。
さて、(日野)は、「大きさを考える」のうち“全体としての大きさの程度をおおまかに把握”することを「風呂敷を広げてみる」といっています。一般的には「大言壮語」の意味なのですが、ここでは”広げて敷き置いた風呂敷を全体として、その全体に見立てた風呂敷の上に構成要素となる物を並べて見る/ご覧にいれるイメージです。”
今回のテーマ「読解力の向上に資すること、その手がかり」のなかで広げてみる風呂敷はふたつあります。
風呂敷のひとつめは、「「読む」の位置づけ」 、
風呂敷のふたつめは、「読解を考える手がかり」 です。
【承】「読む」の位置づけ
まずは風呂敷のひとつめ、「「読む」の位置づけ」 です。
【0147】のなかで、言語の四技能を挙げました。「読む」「聞く」「書く」「話す」の四つです。
「「読む」の位置づけ」というと、まず「読む」はこの四技能のひとつに位置づけることができます。
このほかにどういうグループがあって、そのとあるグループのなかで「読む」はどのように存在するのかを考えることで「読む」の本質に迫ろう、という営みです。
どうすれば「読む」を含むグループを見つけられるのか、試行錯誤ですが、
まず、「読む」の【意味】を並べてみます。
“
①書かれた文章や文字を声に出して言う。
②文字・文章・図・符号などを見て、その意味・内容を理解する。
③現れたようすを見て、内面にあるものや隠されていることを知る。
④漢字を音や訓で表す。<沖森卓也 他『ベネッセ 表現 読解 国語辞典』>
“
次に、「読む」の【反対語】を考えてみます。
手許にある反対語辞書には「読む」は載っていませんでした。自力で考えてみます。
先に考えた「読む」の意味を基にして考えていきます。
①:黙読(【意味】①“音読する”に対して)
②-1:聞く(【意味】②“文字等で理解する”に対して“音(オン)で”理解する)
②-2:書く(【意味】②“文字等で理解する”に対して文字等で“表現する”)
②-3:話す(【意味】②“文字等で理解する”に対して“音(オン)で”“表現する”)
③-1:見る(【意味】③“内面・隠されていること”に対して表面的に)
③-2:読まない(【意味】③“内面・隠されていることを知る”に対して知っても知らないふりをする)
④:(【意味】④に対して、出てこない)
さて、ここに挙げた反対語を眺めてみると、②-1、②-2、②-3はそれぞれ「聞く」「書く」「話す」で、言語の四技能として既出です。
新しく出てきたのは、①、③-1、③-2で、それぞれ「黙読」「見る」「読まない」です。
それぞれの意味をみてみると、次のようになっています。
「黙読」は“声を出さないで、目だけで読むこと。対:音読”
「見る」は“①物の形・色などを目で知覚する。②物事の状態などを調べて、判断・評価をする。(⑧まであるが、後略)”
「読まない」は「読む」の未然形。“動詞活用表の五段のナ・バ・マ行「読む、読もう、読まない、読みます、読んだ、読めば、読め」”
の3つめにある、
(この段落の“”内はいずれも<沖森卓也 他『ベネッセ 表現 読解 国語辞典』>)
反対語から見てみると、「読む」という単語を国語辞典で探すと連結しやすいのは、既出ではありますがやはり、②-2「書く」です。
そもそも、今回【意味】を抽出したのは<沖森卓也 他『ベネッセ 表現 読解 国語辞典』>であって、その名称は『表現 読解 国語辞典』です。
この『表現 読解 国語辞典』という名称からすると、「読解」の対は「表現」なのです。
(残念なのは、当辞典で「読解」をみても「表現」はなく、「表現」をみても「読解」がないことです。大変不満です。とはいえ、名称だけで大ヒントなのでこれ以上の主張は止めおきます)
「読解」の対は「表現」。
「読解」は文字を読み理解するです。その対となる「表現」には、文字や図や絵画を「書く」もあり、そのなかの文字は「話す」が通常として「うたう(朗読や歌を)」こともあります。
あと、文字を読むというのは、その前段に文字が書かれている必要があります。
(日野)の従前の認識では、読むの反対は書くだと思っていました。反対語・対義語がすぐに出てくるつもりが、(あらゆる言葉に反対語があると思っていましたが反対語・対義語辞典には「読む」はないこともあって)意外とそうでもなく苦戦しています。
いったん「読む」の対が「書く」であるとして、進めていきます。
あらためて新明解国語辞典を見てみると
“【読み書き】社会生活をする上で最低限必要な、読解と文字表記の技能。<山田忠雄他『新明解国語辞典』>”
とあります。
ここでは“社会生活をする上で最低限必要な”という部分が印象的です。
岩波国語辞典を見てみると
“【読み書き】文字を読んだり書いたりする技能。「-そろばん」。書物を読むことと文字を書くこと。転じて、学問。”
とあり、「読み書きそろばん」が出てきます。
「読み」は「読み書きそろばん」という3つのなかのひとつと位置づけることもできそうです。
「読む」を「読み書きそろばん」のなかのひとつとしてみると、「書く」は既出ですが、新しく「そろばん」がでてきました。
では、そろばんを(さきほどと同じく岩波国語辞典で)見てみると、
“【算盤・十露盤】②日常の計算技術。「読み書き-」”
とあります。
ここでも「読み書きそろばん」という表現が記されています。
ここで「読み書き」と「そろばん」のそれぞれでみてみた意味をつなげてみると“文字を読んだり書いたり計算する日常の技術/技能”となります。
この「読み書きそろばん」の意味“文字を読んだり書いたり計算する日常の技術/技能”というのは、冒頭に挙げた「読み書き算用は世渡りの三芸」という慣用表現の意味“読むこと、書くこと、計算することの三つは、世の中で生活していくうえでぜひとも必要なものであるということ。”と見比べてみると「読み書きそろばん」と「読み書き算用」が同じことを言っています。
ここから「読み書きそろばん」というのは、“文字を読んだり書いたり計算する日常の技術/技能”であり、「世渡りの三芸」がなくても「読み書きそろばん」というだけで、“読むこと、書くこと、計算することの三つは、世の中で生活していくうえでぜひとも必要なもの”という意味で認識されているということがいえます。
ここでもう少し深追いしてみます。「読み書きそろばん」というときの「そろばん」とは何か?
–次回につづく–