【0241】御社は、電子契約できますか? 3 of 4

10-ビジネス法務

さて、前回

我々法務担当として、まず第一の拠りどころは条文、その文理解釈です。

次いで、条文の要件・効果をいかにあてはめるのか、ということを考えるときに、
判例が(とある事情に対するあてはめの答えであるから)、第二の拠りどころとなります。

この2つ以外は、いかに理論的に正しくても参考情報でしかありません。
条文に書いてないことに関しては、理論的に正しい学者や当局の解釈が、一般に広がることで、司法の判断に影響を与えるかもしれません。
しかし、司法が判断するまでは参考情報です。

と書きました。

同じく前回に、日経新聞(2020年5月20日)の記事を挙げました。その中では、

法務省などは立会人型の電子契約書について、「電子署名法3条に基づく推定効(文書が有効だと推定されること)は働き得ない認識している」との見解を12日の政府の規制改革推進会議の会合で示した。

とあります。
当局の解釈が司法に働きかけるまでもなく、
立会人型の電子契約の有効性に関しては、当局さえ否定的だったわけです。

 

それが約半年後にどうなったか、
同じく日経新聞(2020年9月21日)に次の記事があります。

電子署名、法的な懸念解消

さきほどと同じく、必要な範囲で引用します。

“総務省、法務省と経済産業省は4日、電子署名の法的基盤となる電子署名法3条の解釈について見解を公表した。同条は「本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する」としており、電子署名の名義人が電子文書を作成したと推定されることを定めている。”

“現在普及している電子署名サービスは当事者同士の合意成立を、当事者ではなく第三者の電子署名で裏付ける「事業者型」といわれる仕組みが一般的だ。簡便だが、条文にある「本人による電子署名」といえるのか疑問が残っていた((日野)注:ここで事業者型は5月記事の立会人型と同じ)”

政府見解では「他人が容易に同一のものを作成することができないと認められる」という「固有性の要件」を満たせば、事業者型の電子署名サービスも有効であるとした。固有性を満たす一例として、本人認証の際にスマートフォンなどに送信したワンタイムパスワードの入力を求める2要素認証を挙げた。

 

先の日経新聞(2020年5月20日)の記事の秀逸さとは程遠いものになりました。

先の記事にあった文理解釈を踏襲した上で、「政府は条件付きでOKだって」という内容です。
記事自体はまだ正確さを保とうとしていますが、
見出しが「電子署名、法的な懸念解消」となっています。
いかにも無条件にオッケーと思い込ませるようなものになってしまいました。

見出しに惑わされてはいけません。しっかりと考えましょう。

 

まず、前提として、これを言っているのは行政です。
この政府見解を信じた国民を司法がどう裁くでしょうか。
アホとは言わないと思いますが、少なくとも文理解釈では「アホやなあ」としか言えません。

行政の見解(とそれを信じた可愛い国民)を尊重して、論理解釈を繰り出すしかないと思います。

その判例が出るまでは、政府見解だからと安易に従うことはできません。

文理解釈を礎とし、論理解釈は判例に依るしかないホウタンとしては、
政府見解は参考情報でしかありません。

 

さらに、この政府見解を司法が追認したと仮定します。

そこで問題になるのは、政府が示している要件です。

先の記事から、該当の箇所を引用します。

“政府見解では「他人が容易に同一のものを作成することができないと認められる」という「固有性の要件」を満たせば、事業者型の電子署名サービスも有効であるとした。固有性を満たす一例として、本人認証の際にスマートフォンなどに送信したワンタイムパスワードの入力を求める2要素認証を挙げた。”

ここにある“固有性を満たす一例”を満たすことが困難です。

“本人認証の際にスマートフォンなどに送信したワンタイムパスワードの入力を求める”とある部分、
法人が契約書で押印をするのは、代表印が通常でしょう。
代表者のスマートフォンにワンタイムパスワードの送信をさせるでしょうか?
契約名義人となるレベルの方の個人携帯を開示することなど、できるでしょうか?
会社の命運がかかるレベルの相当規模の受注案件ならまだしも、少なくともこちらが委託する側であれば、そんなことお願いできません。

じゃあ、「会社貸与のスマートフォンでやったらどう?」ということかもしれませんが、
その会社貸与のスマートフォンが代表者に貸与したスマートフォンであることを
どうやって証明するのでしょうか?

 

この見解を出された総務省・法務省・経済産業省は、
スマートフォンにワンタイムパスワードを送らせるために大臣や事務次官の個人メールアドレスを開示するのでしょうか。

省内で実践なされている方法も公開していただいて、
こうしたらいいよと、教えていただきたいものです。

 

–次回につづく–

10-ビジネス法務


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