【0096】「法務担当者はスタッフであるから」というときのスタッフ(前) 5 of 5

10-ビジネス法務63意思決定, 76資格・試験, 78一般知識, 99引用

–前回までのあらすじ–

いくつもの意味がある「スタッフ」という言葉に(日野)は強い想いを持って、その強い想いが前提となる論の進め方をするので、「スタッフ」の意味・イメージが一致しないと、論がつながらなくなる。このブログにおけるスタッフの意味を定義するため経営学の領域でまずは「有斐閣アルマ」シリーズ、次に有斐閣つながりで「有斐閣双書」シリーズ、最近の教科書と古典と言われているような本を引いてきましたが問題提起の連続で、スタッフとは何か、もっと端的に書いている本なかったっけ?

「こっちのテキストはもっと端的ですよ」と思われた方に

ここで同じくテキストという名の物でも学部生向けテキストでなく、資格試験向けのテキストを見てみましょう。

今回は経営学の話なので中小企業診断士(以下では「診断士」ともいいます)試験のテキストで「スタッフ」が記載されている箇所を見てみるとこうです。

ラインとスタッフは、組織構造を決めるうえでの基本概念であり、その違いは職能の内容と権限関係から生まれている。(…)

ラインとは、経営活動の基本的職能である。

「基本的職能」の定義は一様ではないが、具体例をあげるなら、購買、製造、販売といった企業の目的達成を直接行う職能であり、それを欠いた場合に、経営活動そのものが成り立たなくなってしまうような職能である。(…)

スタッフは、ラインの活動を支援していく職能であり、いわば間接的職能である。

スタッフは、ラインの管理機能の複雑化によって、経営者・管理者が管理活動を十分に遂行できなくなったために生まれてきた経緯がある。スタッフは、専門領域に関する助言、補佐を行うことがその職能であり、ラインへの直接的な命令の権限を持たないことが特徴である。

TAC中小企業診断士講座 『スピードテキスト1 企業経営理論』2014年度版 下線は(日野)による>

学部生向けのテキストとはちがって、端的です。

端的というのは、下線のように「○○とは、~である」となっているという意味で使っています。

 

このように、資格試験のテキストでは端的な表現になります。

なぜ、資格試験のテキストはこのような端的な表現になるのか。

それは試験対策という性格上、答えを用意する必要があるからです。

答えを用意するためには、本来は複雑なものであっても割り切って、端的にする必要があるからです。

 

試験の問題に対して、「こういう場合もある」「こんな論点もある」と言っていると、答えが無限に生まれてきます。

無限の答えの妥当性を採点するとなると、その論点を熟知した採点員がたくさん必要になります。それでは試験になりません。

そのため、何万人も受験するような試験では択一式の試験になることが多くなります。

択一式になると余計に場合分けや重要度の低い論点を排除する必要があります。

 

試験というものがこういうものだとなると、その対策のテキストでは、端的にビシッと書くしかなくなります。

たくさんの論点がある言葉であっても、その枝葉を削ぎ落して資格試験で求められる「○○とは、~である」を書かなければ試験対策になりません。

そうやってビシッと決めた一文の、例えば上の引用の下線部分「ラインとは、経営活動の基本的職能である」をみると非常に心地がよく感じます。

 

こういう理由で、資格試験のテキストの記述は端的です。

記述が端的であるから資格試験のテキストは役に立ちます。

その一方で、

 

現実には、実務では、「○○とは~である」という一義だけでは対応できないことが多々あります。

資格試験のテキストが一段下に見られるのは、この部分ではないでしょうか。

 

資格試験のテキストは、当該試験の過去問とその解答に従って記述されます。そうすると、資格試験のテキストの知識だけでは、過去問の状況とは別の視点・過去問の状況とは異なる場面から質問をされると答えられないことになります。

過去問とは異なる現実の場面に対応できない・応用が利かないということになります。

 

では、資格試験のテキストが無駄なもので、読む価値のないものかというと、そうではありません。

大切なのは資格試験がそういう性質のものだということを知っているか否かです。

資格試験がどういうものであって、その試験対策のために書かれているテキストがどういう性質のものであるかを理解して、割り切って使うのであれば、とても有用なものです。

 

そのように、試験対策のテキストはあくまでも試験対策の知識でたくさんの論点が削ぎ落されているのだと、理解していれば、試験勉強の知識だけを振りかざすこともなくなります。

それを理解することなく、資格試験のテキストに書いてあるからといって、そのテキストを引用されてその記述だけでゴリ押しされると「これだから資格保有者は使えん」などと言われるわけです。

 

資格試験のテキストにある一義的な定義だけをゴリ押しすれば敬遠されます。

敬遠されるようでは、その資格を保有している意味がありません。

 

資格試験で要求される端的な定義をベースに持ちながら、その言葉がそれとは別に持っている多面的な意味や周辺にある論点を知っておくことが実務上必要になります。

そのように、多面性や周辺にある論点を知るためには学部生向けのテキストが有用です。

 

こうして見てくると、

同じ「テキスト」と名称の本であっても、学部生向けのテキストと資格試験向けのテキストでは性格がまったく違います。

どちらがより良いということではなく、目的に応じて使い分けるべき物であって、補い合う性質の物であると思います。

 

–次回につづく–


このページの先頭へ