【0089】一才桜とともに考える法務担当者の心構え 4 of 6

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–前回までのあらすじ–

ある年の春分次候、「誕生から一月の記念に残す何か」として一才桜がふさわしいものかどうか、現物を見に事務所近くの花屋さんへ。あえて見ないようにしていたカウンターの向こう側の者いわく、
向側「どうしましたか?」
日野「ちょっと前にオモテに一才桜?があったように思って、」
(とまだ読点(、)の段階なのにそこにかぶせるように)
向側「ああ、そんなん。もう早いうちにないですよ。」(※1)
向側「すぐになくなってしまうんですよ。今年はもう時期ちがうし(※2)」
向側「来年入るかはわかりません」
(日野)が店から出ようとドアと押し開け体半分が外に出かけると、向こう側の者はドアノブを引いてドアを閉めてくれました。(日野)としては店から締め出されたような(※3)感情を持ったのでした。
ここから法務担当者としての心構えを考えさせられたという話。

まず(※1)ライン部門に動いてもらわないと成果を挙げられない法務担当者としては、相手が「バカにされた」と思って提言を採用されなければアウト。さらに(※3)を受けた(日野)は、お店から追い出されたように感じ、それが型どおりであったとしてそれをどう感じるかは相手の受け止め方次第です。相手をどのように想っているか、その想いは知らず知らずのうちに言動に現れると思います。

教訓2:言葉にならないモヤモヤを言葉にしなければならない。本当の悩みを引出してあげなければならない。

※2:「今年はもう時期ちがうし」という言葉は複数の意味にとることができます。

例えば、

  • 今年はもう販売しません。
  • 今年はもう仕入れできません。
  • 今年はもうどれが咲くか決まりました。
  • 今年はもう咲き終わりました。

など。

この花屋さんはどれのつもりで言ったのか、推測ですが多分「今年はもう仕入れできません。」だと思います。

 

さて、この「今年はもう時期ちがうし」という言葉を発した真意は置いておいて、

春分次候の頃に誕生から一月の娘に一才桜を贈ろうとしている(日野)としては、(その時に贈った一才桜が咲いていればよいですが)いま咲いていなくても、もっというと今年咲かなくても来年に花を咲かせてくれればよいわけです。

この先毎年花をつけてくれて10年後にも咲いてくれれば、それで充分というかそれこそ最高なことに思います。

それが叶うなら「今年はもう咲き終わ」った一才桜でもよいわけです。

 

そういう(日野)の想いを聞くこともなく、「時期がちがう」と言ったのは専門家としてのおごりだと思います。

「花の専門家としてその花にとってもっとも良い時期を知っている」という考えだけで相手のことを考えないことがおごりではないかということです。

 

花の専門家としてその花にとってもっとも良い時期を知っているというのは大切な知識です。ただ、すべての商いがサービス業化しているような現代では、知識があるか否かでなく、知識があることは当然で、それ以上のものを要求されるようになっています。

これから春に向けて花をつけて欲しいと思っている(おそらく一般的な日本人)に対しては、その知識はあてはまり、「時期がちが」ったのだと思います。

ただ、そのときの(日野)は贈る相手がまだ目も見えていない生まれて一月の娘という特殊な状況なので、「時期がちがう」こともなかったのです。

 

法務担当者としてこの花屋さんの言葉を反面教師とするなら、「相談者の本当の悩み事はなにか」を捉えなければならない、ということです。

 

今回の(日野)の例では(日野)が聞きたいと思っていたことを伝えられなかったということですが、時に相談者自身なんとなく違和感を感じているけれどその感覚をことばにできない、そのような伝えることのできない悩みもあります。

後者のような言葉にならないものまで気づいて、それを言葉にしてあげることができるかどうか。

そういうところまで捉えるには、自分の知識に驕ることなく、先読みすることなく、早合点することなく、相談者の言葉や表情、動作を受けとめるということ。

過去に似た相談事例を解決したことがあったとして、その事例に引き寄せて話を聞いてはだめです。

自分の知識や経験によるバイアスを振り払ってフラットな気持ちでまず最後まで聞くということが大切だと考えます。

–次回につづく–


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