【0090】一才桜とともに考える法務担当者の心構え 5 of 6

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–前回までのあらすじ–

ある年の春分次候、「誕生から一月の記念に残す何か」として一才桜がふさわしいものかどうか、現物を見に事務所近くの花屋さんいわく、
向側「どうしましたか?」
日野「ちょっと前にオモテに一才桜?があったように思って、」
(とまだ読点(、)の段階なのにそこにかぶせるように)
向側「ああ、そんなん。もう早いうちにないですよ。」(※1)
向側「すぐになくなってしまうんですよ。今年はもう時期ちがうし(※2)」
向側「来年入るかはわかりません」
(日野)が店から出ようとドアと押し開け体半分が外に出かけると、向こう側の者はドアノブを引いてドアを閉めてくれました。(日野)としては店から締め出されたような(※3)感情を持ったのでした。
ここから法務担当者としての心構えを考えさせられたという話。まず(※1)ライン部門に動いてもらわないと成果を挙げられない法務担当者としては、相手が「バカにされた」と思って提言を採用されなければアウト。さらに(※3)は型どおりであったとしてそれをどう感じるかは相手の受け止め方次第。その上に(※2)春分次候の頃に誕生から一月の娘に一才桜を贈ろうとしている(日野)としては、いま咲いていなくても、今年花が咲かなくても来年に花を咲かせてくれればよいわけで、そういう想いを聞くこともなく、「時期がちがう」と言ったのは専門家としてのおごり。自分の知識や経験によるバイアスを振り払ってフラットな気持ちでまず最後まで聞くということが大切だと考えます。

教訓3:花屋さんが売っているのは花だけか。

ここまで教訓としてふたつ、

“「バカにされた」と思わせてはならない。”

“言葉にならないモヤモヤを言葉にしなければならない。本当の悩みを引出してあげなければならない。”

ということを書いてきました。

ここで教訓のみっつめですが、これが総論であって、ここまでのふたつはその下にある各論かもしれません。

 

さて、教訓のみっつめです。

花屋さんが売っているのは花だけでしょうか。

 

少なくとも(日野)があの日事務所近くの花屋さんに行って、そこに求めていたのは、花(を手に入れるということ)だけではありませんでした。

(日野)が花を贈るときの願望は、時系列にこうなっています。

  • どの花を贈り物にするか眺めながら考えたい。
  • その花がその時の贈り物としてふさわしいか知りたい。
  • その花を手に入れたい。
  • 受贈者に渡したい。
  • 受贈者とともにその花を眺め、同じ時を楽しく過ごしたい。
  • その花がまた来年に咲くことを受贈者とともに願う。

 

この時系列でいうと、花を買うというのは③にあたります。花屋さんの役割が花を売るということだけであれば③だけで(日野)とその花屋さんの関係が終わります。

時系列①~⑥のうち③だけの関係であれば、払ったお金と手に入れた物の価値が見え易くなります。お花の原価があって、そこに物流などの経費を載せて売価が決っているのだろう、と。

こういう瞬間的な接点しかない商売は、いまの消費者は知識があるので、「花はいくらいくら、物流にいくらいくら、従業員の給料がいくらいくら、」と計算して、(その(勝手な)計算結果に対して払ったお金が)「高過ぎるのではないか」と考えます。

こういう瞬間的な商売は、原価が計算しやすいため足元を見られ、値下げ競争にさらされ易い商売といえます。

 

一方、考え方次第を変えると、③だけの瞬間的なものでないもっと長い関係性を持つことができます。

例えば①②なら、贈り手は季節ごとの旬や冠婚葬祭に合わせた禁忌を犯さないような花選びの知識を教えて欲しいと思っているから、それに応えてあげる。

例えば⑤⑥であれば、ブーケならできるだけ元気に過ごせるようにこしらえることで長い期間思い出してもらえる。ミニ盆栽なら育て方も教えて欲しいと思っているから、それに応えてあげる。

このように時系列で、顔を思い浮かべてもらう場面がより多くあるほど、そのお店に対する親近感が増すと思います。

そうなると、花を買うときに、花の仕入れ値と物流や従業員の経費というものを考えなくなります。

商品そのものに払う対価とそれによって得る経験が対応関係ではなくなります。

買ったモノが「花」から「花を贈った体験」「日常に花がある生活体験」に変わるからです。

 

 

ここで挙げた「花屋が売っているのは花か」という類の話の代表的な例が、スターバックスです。有名な『ブルーオーシャン戦略』から引用してみます。

パス5:機能志向と感性志向を切り替える

(…)競合他社が袋入りのセメントを売るのをよそに、セメックスは夢を売った。(…)スターバックスは、単にコーヒーを売るのではなく、顧客がコーヒーを心ゆくまで楽しめるような雰囲気づくりをして、コーヒー業界のあり方を大きく変えた。

W・チャン・キム 他『ブルー・オーシャン戦略』

スタバが売っているのはコーヒーではなく、スタバで過ごすゆとりのある時間。そういう空間を売っている。(日本の古い純喫茶も同じではないでしょうか。コーヒーそのものよりあの空間、ひとによりタバコを一本くゆらす時間かもしれず、ひとにより一杯のコーヒーで1曲でも多くのジャズを聴く時間かもしれず。そういうコーヒー1杯の原価どうこうではない次元の話です

–次回につづく–


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