【0065】フレームワークとしての法的三段論法(前) 5 of 7

14-連載-法務三大フレームワーク11環境整備, 12経営法務/戦略法務, 13予防法務, 14臨床法務, 16内部関係, 17継続関係, 18突発関係, 21基本六法, 22民商法, 23労働法, 24消費者法, 25経済法, 26知的財産法, 61契約手続き, 62リスク管理, 63意思決定, 76資格・試験, 99引用

–前回までのあらすじ–
「法務担当者の業務に役立つフレームワークをまとめよう」をテーマとして、その第1号として紹介する「法的三段論法」は「規範定立」「あてはめ」「結論」の三段階、その具体例は



(抽象的法規範:規範定立)人を殺した者は、死刑……に処す。
(具体的事実の認定:あてはめ)ブルータスはシーザーを殺した者である。
(法的結論:結論)ブルータスは死刑に処せられる。

髙橋明弘 『法学への招待』>を基に(日野)が作成
「規範定立」の「規範」としては法律の条文が該当し、条文は「要件」と「効果」で構成されている、その要件と効果のうち、要件を満たすかどうか確認する作業が第2段階「あてはめ」、第3段階では第1段階で提示した要件と効果(AならばCである)のうち第2段階で事実が要件に該当することが確認できた(BはAである)ので事実が効果を導く(だからBはCである)ことを宣言する
(規範定立)人を殺した者は死刑に処す→(あてはめ)ブルータスはシーザーを殺した→(結論)ブルータスを死刑に処する
これが法的三段論法です。

論理順と思考順

ここまで法的三段論法がどういうものかを見てきました。

  • 規範定立:規範(要件と効果)を提示し、
  • あてはめ:事実を要件にあてはめ、
  • 法的結論:事実から導かれる効果を宣言する

という三段階でした。

 

ここで「規範定立→あてはめ→結論」を論理の順序とします。

この順序でいくと、都合が悪いことが現実にはあります。たとえば次の例はどうでしょうか。


(事例)
アケチ氏はある会社に勤めておりその会社の経営者はオダ氏です。
アケチ氏は日々部下の目がある中でオダ氏から厳しい言葉を受け殺意を抱いていました。そんななかアケチ氏は自分の部下であるヘイ氏がオダ氏から直接に指令を受けた上完遂できず厳しい叱責を受けているのを見かけました。ヘイ氏に対するオダ氏のそれは叱責というよりいじめというほうが適切と思われるようなものでした。
さて、オダ氏が出張に出て不在のある日、アケチ氏はヘイ氏の前でつぶやきました。
「オダ氏、今日は京都か。‘HOTEL本能寺’いうたら近くの同系列のホテルがこないだ火事なったなあ」と。
それを聞いた部下ヘイ氏がその夜に京都府下大山崎にある‘HOTEL本能寺’に火を放ちました。
オダ氏は京都市内に別の宿に泊まっており無事でした。一方、大山崎‘HOTEL本能寺’では、たまたまそこに泊まっていたアケチ氏の弟だけが亡くなりました。
(考察)
この場合、部下ヘイ氏はアケチ氏の言葉を聞いて放火をしたようです。その結果亡くなったのはアケチ氏の弟です。
しかし部下ヘイ氏が殺そうとした相手は、オダ氏です。
そしてその殺意の元はオダ氏の日頃の言動です。
そして早とちりをした部下ヘイ氏は「アケチ氏がオダ氏を殺すよう暗黙のうちに指示をした、その指示に従っただけだ」と主張しています。
部下ヘイ氏の行動はアケチ氏の独り言を勝手な判断して行ったものであり、アケチ氏は何もしていません。
しかし結果だけを見れば、アケチ氏の独り言が誘った放火により自身の弟を殺した、ともいえます。

このとき、単純に「アケチ氏は(独り言によって暗黙のうちに部下を動かし結果として)自身の弟を殺害した」として「アケチ氏は死刑」という結論がひとつあります。

さて、対してその結論は妥当でないのでは、という思いもあるのではないでしょうか。

いかなる事情があったとしても、間接的であったとしても、「殺した」という事実によって刑法199条を規範として「死刑に処せられる」という結論を導くことになるとすれば簡単です。
しかし、それでは都合が悪いこともあるのではないでしょうか。

 

この場合、「アケチ氏は死刑」とは異なる答えがあるように感じます。もっとより適切なあるべき答えがあるように思われます。

このように、事例を見てまず(「殺人だから刑法199条」と規範を定立するのではなく)直感的に「あるべき答え」を見出す必要があります。

あるべき答えがあって、その答えを補強するための論理的思考が法的三段論法だということです。

 

法的三段論法の論理の順序は「規範定立→あてはめ→結論」です。

規範定立→あてはめ→結論

でも現実の思考の順序は異なる。事実の確認をしながら、その過程でなんとなく、結論を感じる。その結論に合う規範を探すことになる。

そうすると。論理の順序とは別に、現実の思考の順序としては次のようになります。

「結論→規範定立→あてはめ」

(問題発生:事実)→(結論)→(規範定立)→(あてはめ)→(結論)

論理の順があるなかで、現実の思考の順序はそれとはことなるというのは暴論でしょうか。

これが(日野)ひとりの思い込みでないことを、引用に依りながら、確認していきたいと思います。

–次回につづく–

(追記)投稿当時は現在とちがい、管理人の名称は(準備中)でした。修正して現在の一人称である(日野)等に置換えをしています。


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