【0075】フレームワークとしての法的三段論法(後) 6 of 8
–前回までのあらすじ–
三段論法の大前提・小前提のふたつの前提のどちらかが間違えばまちがった結論が出るが、さも正しいかのような装いで、まちがった結論が出るという「なぜ法的三段論法を使うのか」の理由のふたつめで挙げた「他人を納得させる効力が高いから」という面の裏返し、説得力が高い、故にまちがいに気づかない。
論理の誤りにはいくつかの類型があるので紹介します。
次は循環論法の例です。
“
まずい論証として最も多く見受けられるのは、「循環論法」です。
論証A 論証B 前提1 5億円以上の値で売れる絵画は超一流の絵画である。 U美術館は、目玉として今、超一流の絵画を何億円であれ購入することが必要である。 前提2 マグリットの絵画『大家族』をU美術館が6億2000万円で購入する。 マグリットの絵画『大家族』は、今売りに出されている唯一の超一流の絵画である。 結論 『大家族』は超一流の絵画である。 U美術館は今、『大家族』を何億円であれ購入しなければならない。 論証Aでは、ある絵画の高額購入という事実によって、その絵画が超一流だという評価を正当化し、論証Bでは、ある絵画が超一流だという評価によって、その絵画の高額購入を正当化しています。一方の論証が成り立つためには他方の論証の結論がすでに認められていなければなりません。互いに相手によって自分を支えているわけです。(中略)論証AとBを同じ人が同時に行ったとしたら、それは証明すべき結論を根拠として採用してその結論自信を証明する「論点先取」というインチキになってしまいます。
<三浦俊彦 『本当にわかる論理学』>
“
勘違いで言ってるのか、わざと言っているのか、どちらにしても「インチキ」です。
次は多義性の誤謬の例です。
“
たいていの単語は、複数の意味を持っています。言葉は本質的に、多義的なのです。話を進めているうちにいつのまにか一つの意味から別の意味に移ってしまい、そのため間違った論証が正しいように錯覚することが少なくありません。
- 前提1:天才とは、IQ180以上の人である。
- 前提2:ピカソは天才である。
- 結論:ピカソはIQ180以上である。
「天才」という語が、知能検査の結果に基づいた能力と、芸術的能力の両方に用いられており、妥当な論証ではなくなっています。
<三浦俊彦 『本当にわかる論理学』>
“
この多義性の誤謬は、ついうっかりやってしまいそうです。
文字に起こすとすぐに違和感を得ますが、会話だとよほど注意してもまちがいに気づかず過ぎていくように思います。
このようにいくつかの類型があります。前提にまちがいがあるとまちがった結論が出てしますのですが、前提にまちがいがあったとしても「一見すると正しそうな」結論が出てしまいます。
まずこの「一見すると正しそうな結論が出てしまう」というところが三段論法が持つ注意点です。そして、さらに「(説得力が高い故に)まちがいに気づきにくい」ということがその危険度をより高めています。
法的三段論法を利用する際はこの点に注意しておきましょう。
ちょっとしたうっかりによって、まちがった(正義に反する)主張をしてしまうことになります。
これが、法的三段論法を活用していく上で知っておくべき注意点ふたつのうちのひとつめ「三段論法自体が持つ罠」でした。
–次回につづく–