【0106】国語辞典の選び方 5 of 7

10-ビジネス法務61契約手続き, 77一般スキル, 78一般知識

–前回までのあらすじ–

言葉を調べるとっかかりとして専門的な物より国語辞典のほうが向いている、国語辞典の分類方法から始まって、前回は国語辞典を複数持つことの効用を書きました。

 

一般的・常識的と世間が考えているであろうものを選ぶ

さて、国語辞典の分類の仕方を書いてきました。

そのうえで、そのように分類される国語辞典の中からいろいろと見比べて自分の感覚に合うものを選ぼう、なにが合うか判らなければ先ずは「岩波」+「新明解」の2冊を使いながら言葉には多面性や深みがあることを学習していこう、ということを書いてきました。

 

このほかにも国語辞典の選び方があります。

自分に合う・合わないでの選び方がひとつ。

“フォーマルなスーツとややラフなジャケットとジーンズ、みたいな感じ”の「岩波」「新明解」の2冊を選ぶやりかたがひとつ。

もうひとつ、国語辞典を使う目的に遡って選ぶ方法を挙げておきます。

 

「国語辞典の選び方」という答えを得るために問いを吟味します。

国語辞典の選び方を考えるにあたって、そもそもなんのために国語辞典を選ぶのか、という理由を考えるときに、国語辞典を使う目的が何なのかを考えてみると、
何らかの言葉を調べるわけですが、
その言葉が「(自分にとって)未知の言葉か既知の言葉か」という区別が先ずあります。

 

ある単語を引くと類似語・対義語がたくさん見つけられるのが国語辞典の特徴であって、まったくいままで使ったことのない未知の言葉に辿り着くことができます。
この

ア)まったくいままで使ったことのない未知の言葉に辿り着くこと

が未知の言葉を調べるということです。

 

対して、既知の言葉を引くときは2種類の願望があります。

既知の言葉には(自分なりの)イメージがあります。例えば「クレーム」というと(日野)は「苦情」という意味を思い描きます。そのように自分が言葉に持っているイメージに対して、

イ)本当にその言葉にその意味があるかの確認をしたい

ウ)その意味以外に一般的にどう使われるかの確認をしたい

をしたい。このふたつが既知の言葉を調べるということです。

 

既知の言葉に対する2種類の願望に未知の言葉を探すという願望が加わって、3通りの願望から国語辞典を引ことになります。

国語辞典を使う目的はこの3通りがあるということです。

 

さて、このように3通りあるなかで、法務担当者としてはどの目的で国語辞典を使うのか。
ウ)の「既知の言葉に対して、その言葉が一般的にどう使われているかの確認」であることがほとんどではないでしょうか。

法務担当者として国語辞典を引くときは、そのほとんどが一般的で常識的な意味を知ることが目的のように思います。
それが目的であれば、一般的で常識的な意味が書かれている国語辞典を選ぶべき、ということが判ります。

 

では一般的で常識的な意味が書かれている国語辞典はどれか。
それは世間に一般的で常識的と考えられている物です。ある真実に対して、それを一般的か・常識的かを決めるのは世間です。
この意味では、いま現在においては一択です。広辞苑を選びましょう。

 

なぜ広辞苑の一択かを書いていきます。

例えば、上司との会話で、

「この資料のここに「スタッフ」の定義を書いているけど、これはどこから持ってきた?」

「広辞苑です」

というときっと「そうか、わかった」となるでしょう。

これが「広辞苑です」でなく、「 TACの診断士テキストに書いてあります」となると、きっと同じようには話が進まないはずです。

 

真実がどうであるかよりも誰がそう言っているかの方が重要であることが多々あります。

これは、道徳的な善し悪しではなくもっと実利的なことで、下級審・裁判例を引いてくるよりも最高裁・判例を持ってきた方の信用度が高いということと同じです。いずれも正しいのだけど、信頼度がちがいます。

法務担当者が国語辞典を選ぶときの基準はただひとつ「権威の有無」であるといえます。

そこに書かれているのが自分の感覚に合うかどうかは置いておいて、参照したその物に権威があるかどうかが大切です。

 

権威があるところからの引用であれば、それが正解かどうかを確かめる必要がありません。

スタッフである法務担当者が意思決定の補助をおこなうに当たって、その意思決定のための前提条件の段階で、言葉の意味の刷り合わせに労力を割いている時間はありません。そのレベルのことは異論を入れる余地がない権威のある物を参照先にしておきたいものです。

参照先に書かれていることが一般的で常識的であると疑う余地のない信頼を得られる程度の権威がある物でないと、法務担当者の業務では使用できません。

 

そういう理由から、法務担当者として国語辞典を選ぶときの基準はただひとつ「権威の有無」ということになります。

そして、国語辞典の世界で権威がある物というと、現在では広辞苑の一択。ということになります。

–次回につづく–


このページの先頭へ