【0126】ホウタン的日本酒入門(前) 2 of 5

91-ホウタン的××入門21基本六法

–前回までのあらすじ–

わが社を去る日本酒好きの部長の送別の品の企画・制作の任を受けた(日野)は、部員全員の出身府県の地酒300ml瓶を詰め合わせにして贈ることにしましたが、その準備の結果(日野)の手許に20本弱の日本酒が残ったので、かねて抱いていた「“純米大吟醸”というやつは同じ香りがする、どうやら酒造の所在地より造り方のちがいのようだ」という仮説を検証するべく「純米酒」と書かれた酒から飲み比べてみるもすべてちがう香りと味わいで、仮説は崩れ、仮説が崩れるとそれは疑問に変わりました。

同じ「純米酒」でも香りも味わいもちがうのはなぜか。

加えてもうひとつ疑問が生まれます。このあとに残りの10数本を飲んでいると、「純米酒」以外にもラベルにはいろいろと書いてあります。

「大吟醸」「純米吟醸」「本醸造」「生貯蔵」「生酛」「生一本」…

前2つ「大吟醸」「純米吟醸」というのは、おそらく「純米大吟醸」とか「純米酒」とかいうのと同じ概念だろうけど、次の「本醸造」とはなにか。

さらに後ろ3つ「生貯蔵酒」「生酛」「生一本」というのは、すべて「生」という文字がありながら「生貯蔵酒」は“要冷蔵”とされている。「生酛」と「生一本」には“要冷蔵”の表記はない。

 

なぜだ。

 

【起】日本酒のラベルに対して疑問を持つ。疑問があると答えを欲するは職業病か

このように、ラベルを見ながら疑問に思いつつ、実際に飲んでみても何が違うのかわかりません。

ちがうということはわかる、でもそれがどういう理由でちがうのかわからない。

 

仮説が覆されると疑問に変わり、疑問があると答えを欲する。

人の性のようにも思いますが、特に法務担当者が患う職業病的特質のようにも思います。

 

こうして、(日野)は日本酒に興味を持ち、それなりの深さで調べることになりました。

 

 

【承1】【酒の分類1】特定名称~純米と吟醸と~

さて、まず、部長の送別の後に(日野)の手許にあった

お酒にはラベルに「純米酒」「本醸造」「大吟醸」などと書かれていました。

これは「特定名称」といわれるもので、酒税法が根拠でした。

 

平成4年4月1日からの改正酒税法の施行によって、長く続いた日本酒の「級別制度」が廃止された。(・・・)級別制度に代わる品質ガイドとして「清酒の製法品質表示基準」が国税庁から告示され、平成2年4月1日から施行された。この基準は、原料や製造方法などの違いによって、日本酒を「特定名称酒」と特定名称酒以外の日本酒(普通酒)とに分けた(・・・)特定名称酒とは吟醸酒、純米酒、本醸造酒のことで、これらはさらに製造方法や品質などの違いによって、吟醸酒、大吟醸酒、純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒、特別純米酒、本醸造酒、特別本醸造酒の8種類に分類されている(・・・)なお、各特定名称酒を規定する製造方法、品質のポイントは、①精米歩合、②醸造アルコールの使用の有無、③吟醸造りか否かの3点である。

<小泉武夫監修『日本酒百味百題』p160>

この引用にあるように、精米歩合の度合い、醸造アルコールの使用の有無(いわゆるアル添酒か否か)、吟醸造りか否かの3つの観点から分類された結果が特定名称で、これは国税庁告示第8号(平成元年11月22日、最終改正平成29年国税庁告示第4号)として定められています。

以下に当該告示を引用します。

(特定名称の清酒の表示)

1 次の表の左欄に掲げる清酒の特定名称は、当該清酒がそれぞれ同表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであるとき、当該清酒の容器又は包装に表示できるものとする。

特定名称

製法品質の要件

吟醸酒

精米歩合60%以下の白米、米こうじ及び水、又はこれらと醸造アルコールを原料とし、吟味して製造した清酒で、固有の香味及び色沢が良好なもの

純米酒

白米、米こうじ及び水を原料として製造した清酒で、香味及び色沢が良好なもの

本醸造酒

精米歩合70%以下の白米、米こうじ、醸造アルコール及び水を原料として製造した清酒で、香味及び色沢が良好なもの

本表の適用に関する通則

(1) 精米歩合とは、白米(玄米からぬか、胚芽等の表層部を取り去った状態の米をいい、米こうじの製造に使用する白米(以下「こうじ米」という。)を含む。以下同じ。)のその玄米に対する重量の割合をいうものとする。

(2) 白米とは、農産物検査法(昭和26年法律第144号)により、3等以上に格付けされた玄米又はこれに相当する玄米を精米したものをいうものとする。

(3) 米こうじとは、白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでんぷんを糖化させることができるものをいい、特定名称の清酒は、こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合をいう。以下同じ。)が、15%以上のものに限るものとする。

(4) 醸造アルコールとは、でん粉質物又は含糖質物を原料として発酵させて蒸留したアルコールをいうものとする。

(5) 醸造アルコールを原料の一部としたものについては、当該アルコールの重量(アルコール分95度換算の重量による。)が、白米の重量の10%を超えないものに限るものとする。

(6) 精米歩合、こうじ米の使用割合及び醸造アルコールの白米に対する重量の割合が基準に適合しているかどうかは、1%未満の端数を切り捨てた数値により判定するものとする。

(7) 特定名称の清酒は、酒税法第43条第3項((みなし製造))の規定の適用を受けたものを除くものとする。

(8) 香味及び色沢が良好なものとは、異味異臭がなく清酒固有の香味及び色沢を有するものをいうものとする。

 

2 前項に掲げる特定名称の清酒の表示は、当該特定名称によることとし、これと類似する用語又は特定名称に併せて「極上」、「優良」、「高級」等の品質が優れている印象を与える用語は用いないものとする。

ただし、次の各号に掲げる場合については、それぞれ当該各号に掲げるところによることとして差し支えない。

(1) 吟醸酒のうち、米、米こうじ及び水のみを原料として製造したものに「純米」の用語を併せて用いること。

(2) 吟醸酒のうち、精米歩合50%以下の白米を原料として製造し、固有の香味及び色沢が特に良好なものに「大吟醸酒」の名称を用いること。

(3) 純米酒又は本醸造酒のうち、香味及び色沢が特に良好であり、かつ、その旨を使用原材料、製造方法その他の客観的事項をもって当該清酒の容器又は包装に説明表示するもの(精米歩合をもって説明表示する場合は、精米歩合が60%以下の場合に限る。)に「特別純米酒」又は「特別本醸造酒」の名称を用いること。

こうして告示そのものに当たってみると、(日野)が読んだいくつかの本にある特定名称の説明文より、通達文そのものの方が洗練されているように思います。

特定名称の定義を確認するには、常に、国税庁のWebページ(https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/kijun/gaiyo/04.htm)を見るのがよさそうです。

 

–次回につづく–


このページの先頭へ