【0209】商標法を学ぶ前に 3 of 3

10-ビジネス法務26知的財産法

前回、
小谷『商標教室』の引用箇所にあった
“商標法は登録制度だけを規定しているにもかかわらず、商標法が商標のすべてを規定している”という誤解、
つまり、法によって創られた権利であって法がすべてを規定している
と誤解してしまうことが、
商標に限らず、知的財産法全般にある思い込みではないかと書きました。

 

その思い込みが、法務担当者レベルならまだ良いのですが、
どうやら法務担当者レベルではとどらないようであるところに深刻な問題があります。

前々回に、“商標感の違い”、裁判官も学者も弁理士も弁護士も基本的な見解が違っている
ということを書きましたが、そこに戻ってきます。

裁判事件の多くの部分がそのような商標に関する基本的な理解の違いから来ているように思われます。当事者間で解決できない争いは裁判所で解決する以外にないのですが、商標に関していえば、当事者間で解決できないことの原因には、争いの当事者とこれを代理する弁護士、弁理士の商標間の違いが根底にあるようです。ですから、解決の糸口を見つけようにも、当事者が立っている土俵もルールも違っていますし、これを判断する裁判官の基本的な商標感も違っていることがあるため、時としてわれわれが驚くような判決を目にすることになります。

小谷武 『商標教室(基礎篇)』p3 下線は(日野)による>

引用にあるとおり、「当事者間で解決できない争いは裁判所で解決する以外にない」のです。
それなのに「裁判官の基本的な商標感が違っている」わけです。

裁判官も学者も弁理士も弁護士も基本的な見解が違っているなら、「弁護士・弁理士が裁判に合わせなさいよ」と言いたいところですが、同じく小谷『商標教室』p124に“出願中の商標を登録商標と誤認”した上でなされた裁判例が挙げられ、それは上記引用にある“時としてわれわれが驚くような判決”の一例だと思われます。

 

もうひとつ、「弁護士、弁理士の商標感の違い」もあります。

これは、
商標登録の実務を担う弁理士・その監督官庁である特許庁、と
法を司る弁護士・裁判官、とで
法解釈に違いがあることということです。

どちらの意見を採るべきかは、本来言わずもがなでございます。

 

商標権、著作権で問題が起こったときに、
知財の専門家である弁理士さんに相談に行く、実務の感覚にあった回答をくださる。
法律の専門家である弁護士さんに相談に行く、実務は関係なく法律上の文言から回答をくださる。
そんな違いでしょうか。

法務担当としてはどちらの意見を採るべきか、言わずもがななのですが、
それを社に戻ってから意思決定をする人たちに対してどのように説明すればわかってもらえるのか、
またしても、むずかしいところです。

 

大変困った話なのですが、知財に関してはそれが現時点の事実だと認識した上で、
判断を下していくしかないようです。

–完–


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