【0217】バーバラ・ミント『考える技術・書く技術』 を読む おまけ
今回取り上げた「考える技術・書く技術」のなかで、こんな図があります。
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<バーバラ・ミント 『考える技術・書く技術』p22>
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いちばん上の箱「豚はペットとして飼われるべきだ」という奇怪な結論の下、
その結論に至る根拠が連なっています。
この図の次のページの本文には以下の記載があります。
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チェスタートン氏は言います。「豚はペットとして飼われるべきだ」読み手は反応します。「なぜ?」チェスタートン氏は言います。「理由は2つさ。第1に、豚はまったく美しい。第2に、豚はバリエーションに富んだ繁殖をするからだ」
読み手:いつから豚は美しいものになったのか?
チェスタートン氏:でっぷりと肥ってまったく英国的になっているからだ。
読み手:肥っていることがどうして美しいのか?
チェスタートン氏:見る人に対しとても美しい曲線を見せてくれるし、飼い主に謙遜の心を芽生えさせるからだよ。
さて、あなたはチェスタートン氏の主張に合意しかねるとは思いますが、少なくとも、何を言いたいのかは理解できます。彼がなぜそんなことを言うのか明らかになったので、これ以上の疑問はありません。したがって、彼の主張のもう1点――豚は全く英国的だから美しいという文に移ります。(…)ここでも、この意見に同意しがたいと感じるでしょうが、少なくとも、彼がなぜそう言おうとしているのかは明らかでしょう。あるポイントから生じる疑問に対し、その下のグループでそれに答えるという作業に徹しているからです。
<バーバラ・ミント 『考える技術・書く技術』p22 下線は(日野)による>
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ここで重要なのは、この図とともにある本文の“同意してもらえないかもしれないが少なくとも理解してもらえる”という部分です。
これが論理展開を用いることの最大の効用だと思っています。
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“同意してもらえないかもしれないが少なくとも理解してもらえる”ことがなぜ重要なのか。
自身にやりたいことはあるが、それを自分ひとりの力だけではできないときに、協力者を得なければなりません。
それは上司かもしれませんが、同僚や部下かもしれません。
社外の友人のときもあれば、もっと身近な配偶者ということもあると思います。
そのような、誰かの協力を得るために、その誰かを説得することが必要となります。
(もともと結論が一致していたり、「よくわからんけどおまえが言うならいいよ」と言ってくれる相手ならよいのですが、そうではなかったときに)
誰かを説得するときにはまずは自分の主張を理解してもらう必要があります。
なぜ理解してもらわなければならないのかというと、自分の主張を理解してもらえないと
議論にならないからです。
どこが腑に落ちないのか、どこを譲歩しどこを改善すれば納得を得られるのか判断できないからです。
もう一度、さきほどの図を見てみます。
そして、さきほど引用したような会話をしたとします。
チェスタートン氏:豚はペットとして飼われるべきだ
読み手:なぜ?
チェスタートン氏:理由は2つさ。第1に、豚はまったく美しい。第2に、豚はバリエーションに富んだ繁殖をするからだ
読み手:いつから豚は美しいものになったのか?
チェスタートン氏:でっぷりと肥ってまったく英国的になっているからだ。
読み手:肥っていることがどうして美しいのか?
チェスタートン氏:見る人に対しとても美しい曲線を見せてくれるし、飼い主に謙遜の心を芽生えさせるからだよ。
これを自身が説得される側=読み手として見てみます。
「豚はペットとして飼われるべきだ」という主張に対して、
(日野)は賛成できないわけです。
ただ、賛成はできないわけですが、
主張を言われただけでは「わからん」というほかないものの、
このように理由を示されると、どこに理解できない箇所があるかは判ります。
「“バリエーションに富んだ繁殖をするから⇒ペットとして飼うべき”
という点と、
“典型的に英国的だから⇒美しい”
という点は理解できないからもうちょっと詳しく教えてくれないか」というふうに
突っ込んだ説明を求めることができます。
ある主張をしたときに、「わからん」とだけ言われてしまうのと、「xxのところがわからん」と言われるのでは、その後の説得が随分ちがったものになります。
前者では取り付く島もないわけですが、後者であれば食い下がることもできそうです。
このような大きな違いとなるので、“同意してもらえないかもしれないが少なくとも理解してもらえる”ことはとても重要です。
“同意してもらえないかもしれないが少なくとも理解してもら”うために、
論理展開の効用を活かしたいものです。
若い時は聞いてもらえるような主張も、
年をとるほど、相手にしてもらえなくなるものですから、
自分の意見、主張、考えというのを他人に理解できる形に整理する技術というのは、
中堅以上には必須の能力だと思います。
–完–