【0245】法律学の基本書を読む 5 of 10
前々回・前回と憲法、行政法、商法の基本書を挙げてきました。
ここまでは(日野)にとって迷いのないところです。
民事法分野を続けて、民法を見ていきます。
今回も拠りどころは愛知県弁護士会法科大学院委員会 編『入門 法科大学院』です。
古典はまちがいなく我妻『民法講義』ですが、基本書は候補が数多あります。
定番は内田貴『民法』でしょう。『入門 法科大学院』でも“法科大学院のもっともポピュラーな教科書の1つです”
と書かれています。
当然これを買うつもりで書店に行って実物を見てみましたが(日野)には合いませんでした。
比べた結果、近江幸治『民法講義』を選びました。
これも行政法のところで塩野『行政法』と宇賀『行政法概説』とを見比べて塩野『行政法』を選んだのと同じく、良し悪しではなく相性の話です。
内田『民法』、近江『民法講義』の他、基本書の候補として『入門 法科大学院』では、“分野によって選んでいく方法”が呈示されています。
総則は山本敬三『民法講義』(有斐閣)、
債権法は潮見佳男『ライブラリー基本講義(新世社)』『プラクティス民法(信山社)』、
物権法・担保物権法では佐久間毅『民法の基礎』や道垣内弘人『現代民法(有斐閣)』など
挙げられています。
書店で眺めてみましたが、立ち読みではまったく頭に入ってきません。ものすごく高度な内容なのだと思います。
この辺りは、商法でいう江頭『株式会社法』が“弁護士が最新の突っ込んだ問題を検討するときには、この本を参照することが多いようです。(…)辞書的に用いる使い方が適している”
とされていたのと同様の位置づけになると思われます。いわゆる辞書的に該当する物でしょう。
(感覚的にはそれ以上、研究の最先端という感じです。)
前回までの憲法・行政法・商法に加えて、今回挙げた民法を並べてみます。
古典 |
基本書(コンパクトに凝縮) |
基本書(辞書的) |
芦部信喜『憲法学』有斐閣、『憲法判例を読む』岩波書店 |
芦部信喜『憲法』 |
野中俊彦 他『憲法Ⅰ・Ⅱ』 |
田中二郎『行政法』法律学講座双書 |
櫻井敬子 他『行政法』 |
塩野宏『行政法Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 |
鈴木竹雄『会社法』法律学講座双書 |
神田秀樹『会社法』 |
江頭憲治郎『株式会社法』 |
鈴木竹雄『商行為法・保険法・海商法』法律学講座双書 |
近藤光男『商法総則・商行為法』 |
江頭憲治郎『商取引法』 |
我妻榮『民法総則 (民法講義 1)』 |
近江幸治『民法講義1 民法総則』 |
山本敬三『民法講義』 |
我妻榮『物権法 (民法講義 2)』 |
近江幸治『民法講義2 物権法』 |
佐久間毅『民法の基礎』 |
我妻榮『担保物権法 (民法講義3)』 |
近江幸治『民法講義3 担保物権』 |
道垣内弘人『現代民法』 |
我妻榮『債権総論 (民法講義4)』 |
近江幸治『民法講義4 債権総論』 |
潮見佳男『プラクティス民法』 |
我妻榮『債権各論 上巻 (民法講義5-1)』『債権各論 中巻一 (民法講義5-2)』『債権各論 中巻二 (民法講義5-3)』 |
近江幸治『民法講義5 契約法』 |
潮見佳男『ライブラリー基本講義』債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得〈2〉不法行為法
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我妻榮『事務管理・不当利得・不法行為』 |
近江幸治『民法講義6 事務管理・不当利得・不法行為』 |
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近江幸治『民法講義7 親族法・相続法』 |
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ここまでの憲法・行政法・商法と比べて、民法の基本書はずいぶんと文量が多くなりました。
“コンパクトに凝縮”の欄が近江『民法講義』です。全7冊、計2400ページあります。
民法の各分野でそれだけの論点があるのだから仕方ない、とも思いますが、
じゃあ近江『民法講義』を何度も何度も読み返すことができるかというと、
ちょっとしんどい、というのが偽らざる思いです。
もうひとつ、
近江『民法講義』を選んだ理由として、学説・判例の紹介もていねいにされていることが挙げられます。
『入門 法科大学院』でも“文理解釈を重視し、条文の文言や沿革がていねいに論じられていますので、各学説の分岐点を理解するうえで大変便利です”
という記載があります。
(日野)としては、内田『民法』よりくわしくていねいだから近江『民法講義』を選んだのです。
そうすると、内田『民法』よりくわしくていねいな近江『民法講義』を“コンパクトに凝縮”という枠に入れること違和感があります。
では、“コンパクトに凝縮”にこだわらなければよいのでは、という反論もできます。
これに関しては、弥永真生『法律学習マニュアル』を見ると”基本書としてダットサンを読んだ(p39)”とあります。
ダットサンと呼ばれる我妻『民法』は、全3冊・計1500ページです。
1500ページなら近江『民法講義』の2400ページとそれほど差が無いようですが、
判型がちがって、近江『民法講義』はA5サイズに対してダットサンはB6サイズなので、
並べたときに見た目から受ける印象は大きくちがいます。
弥永『マニュアル』で書かれているように“基本書を10回、20回と読む”となると、
見た目から受ける印象、手に取りやすいかどうかというのは重要だと思います。
この点から基本書には、ある程度のコンパクトさが求められると思います。
くわしくていねいであること、行間がない“辞書的”であることにも価値がある一方、
“コンパクトに凝縮”されていることにも価値を見出すことができます。
果たして、民法において、何を“コンパクトに凝縮”とし、何を“辞書的”とするか
ここで迷いが生まれました。
–次回につづく–