【0248】法律学の基本書を読む 8 of 10

21-読解する技法

【0246】法律学の基本書を読む 6 of 10で仮説を立て、前回【0247】までで検証を行いました。

その結果、このブログでは、以下の4つを、基本書の特徴とします。

1.全体を網羅して筋が通っている(体系立っている)

2.論点、争いのある個所が網羅されている(判例・通説が明記されている)

3.何度も読み返すことができる(コンパクトである)

4.現行法対応・重要判例がフォローされている(改訂が続いている)

 

では、ここで民法の基本書に戻ります。

おさらいから、ここまで挙げてきた基本書の具体例は以下です。

古典

基本書(コンパクトに凝縮)

基本書(辞書的)

芦部信喜『憲法学』有斐閣、『憲法判例を読む』岩波書店

芦部信喜『憲法』

野中俊彦 他『憲法Ⅰ・Ⅱ』

田中二郎『行政法』法律学講座双書

櫻井敬子 他『行政法』

塩野宏『行政法Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』

鈴木竹雄『会社法』法律学講座双書

神田秀樹『会社法』

江頭憲治郎『株式会社法』

鈴木竹雄『商行為法・保険法・海商法』法律学講座双書

近藤光男『商法総則・商行為法』

江頭憲治郎『商取引法』

我妻榮『民法総則 (民法講義 1)』

近江幸治『民法講義1 民法総則』

山本敬三『民法講義』

我妻榮『物権法 (民法講義 2)』

近江幸治『民法講義2 物権法』

佐久間毅『民法の基礎』

我妻榮『担保物権法 (民法講義3)』

近江幸治『民法講義3 担保物権』

道垣内弘人『現代民法』

我妻榮『債権総論 (民法講義4)』

近江幸治『民法講義4 債権総論』

潮見佳男『プラクティス民法』

我妻榮『債権各論 上巻 (民法講義5-1)』『債権各論 中巻一 (民法講義5-2)』『債権各論 中巻二 (民法講義5-3)』

近江幸治『民法講義5 契約法』

潮見佳男『ライブラリー基本講義』債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得〈2〉不法行為法

 

我妻榮『事務管理・不当利得・不法行為』

近江幸治『民法講義6 事務管理・不当利得・不法行為』

 

近江幸治『民法講義7 親族法・相続法』

 

 

芦部『憲法』、サクハシ『行政法』、神田『会社法』、近藤『商法総則・商行為法』に変わりはないです。

民法で、近江『民法講義』全7巻が“コンパクトの凝縮”かというところを考えなおしてみます。

 

特徴4点から考えると、

1.全体を網羅して筋が通っている(体系立っている)

2.論点、争いのある個所が網羅されている(判例・通説が明記されている)

3.何度も読み返すことができる(コンパクトである)

4.現行法対応・重要判例がフォローされている(改訂が続いている)

 

“辞書的”に挙げた5冊(山本『民法講義』、佐久間『民法の基礎』、道垣内『現代民法』、潮見『プラクティス民法』『ライブラリー基本講義』)は、1・2・4は達成されていますが、3.において圧倒的に不利です。
このレベルの本からパラパラと、いま向き合う課題に該当する箇所を見つけられるくらいまで読み込もうと思うと、それだけで1冊につき1年はかかりそうです。自社の事業の重要分野なら、そこまでやるべきかもしれませんが、民法の全体に亘ってそのレベルは不要のはずです。

 

次に“コンパクトの凝縮”に挙げた近江『民法講義』。
これも1.2.4.は達成されています。
3.において、全7巻・全2400ページを何度も読み返せるかはひとそれぞれだと思います。

(日野)の現状・実務上はどうかと考えてみると、これは“辞書的”です。

 

では、なにが“コンパクトに凝縮”になるのか、
実は(日野)にとってはダットサンが基本書ということになるかもしれません。

1.体系立っている2.判例通説の明記はクリアです。

3.何度も読み返せるも全3巻・全1500ページは、何かコトが起こったときにパラパラとめくるのに支障のない物量です。
近江『民法講義』7巻・2400ページと比べると、大差ないように感じますが、冊数の差が大きいです。いざコトが起こったときに、1巻(総則・物権法)、2巻(債権法)、3巻(親族法・相続法)のどれを見るべきかはすぐに判断できるので、実質1冊みれば済むというのは大きな差です。

残りは4.改訂が続いている。この点は、我妻榮氏が故人なので、期待できません。
お弟子さんにより改訂が続いていますが、直近の民法大改正を踏まえると、改正法に対応した判例も少ないなかで、この点は改正民法の解説本を併用するほうがよいように思います。

イメージ的にいうと、ダットサンを基地にして、論点を把握して飛ぶべき場所を見極めて飛び、改正法の解説に飛んで、ダットサンに戻って書き込みをしておく、そういう使い方です。

 

ダットサンを基本書とすると、民法は以下になります。

古典

基本書(コンパクトに凝縮)

基本書(辞書的)

我妻榮 民法講義『1民法総則』『2物権法』『3担保物権法』

我妻榮 他『民法1 総則・物権法』

近江幸治 民法講義『1民法総則』『2物権法』『3担保物権』

我妻榮 民法講義『4債権総論 』『5-1債権各論 上巻』『5-2債権各論 中巻一』『5-3債権各論 中巻二』、我妻榮 『事務管理・不当利得・不法行為』

我妻榮 他『民法2 債権法』

近江幸治 民法講義『4債権総論』『5契約法』『6事務管理・不当利得・不法行為』

 

我妻榮 他『民法3 親族法・相続法』

近江幸治『民法講義7 親族法・相続法』

 

–次回につづく–

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