【0247】法律学の基本書を読む 7 of 10
前回抽出した特徴4つ、
1.全体を網羅して筋が通っている(体系立っている)
2.論点、争いのある個所が網羅されている(判例・通説が明記されている)
3.何度も読み返すことができる(コンパクトである)
4.現行法対応・重要判例がフォローされている(改訂が続いている)
まだ仮説段階なので検証を続けます。
どのように検証するか。ここで「基本書」という言葉に戻ってみます。
辞書に「基本書」という言葉そのものズバリはありませんでしたが、「基本」はあります。
旺文社国語辞典では“基本:物事の中心や基準になると考えられているもの。よりどころとする大もと”とされています。
「基本」だけを見ても、他の言葉と比べてみなければ、その特徴はわかりません。
基本書として挙げてきた本のまえがきを見ると、“この本は「○○書」である”旨、宣言されていることがよくあります。
ここまでに挙げてきた本から例を3つ挙げます。
- 神田秀樹『会社法』
“本書は、会社法について筆者が理解しているところを概説したものである。”
- 江頭憲治郎『株式会社法』
“本書は、会社の法務担当者・法曹実務家など、仕事で会社法に携わる実務家が日常に参照することを主に想定した株式会社法の体系書である。”
- 野中俊彦 他『憲法Ⅰ』
“本書は、大学の講義用教科書として書かれたものであるが、(中略)その意味で、本書は註釈書あるいはかなり詳しい参考書としての性格も併せ持っており(後略)”
神田『会社法』、江頭『株式会社法』、四人組『憲法Ⅰ』のはしがきでは、
それぞれ概説書、体系書、教科書として書かれたものであると宣言されています。
概説書や体系書や教科書がどういうものか、定義するのはむずかしいのですが、これらの方々がそう宣言されているのですから、まちがいないでしょう。
ここで、旺文社国語辞典で、「基本」「概説」「体系」「教科」を調べてみます。
(「教科」だけは「教科書」もあったので、参考情報で入れました。)
“
基本 |
物事の中心や基準となると考えられているもの。よりどころとする大もと |
概説 |
物事の全体についてのだいたいの説明をすること |
体系 |
個々別々のものを一定の原理に基づいて系統的に統一した組織。すじみちをつけてまとめられた知識・理論の全体 |
教科 |
学校で、学習する知識や技術などの内容を学問の体系に沿って組織した一区分 |
(参考)教科書 |
学校で教科指導上の中心となる図書。授業で使う本 |
<以上、旺文社国語辞典、下線は(日野)による>
“
「教科」は“学問の体系に沿って組織”
となっており、「体系」が含まれる概念です。
「概説」「体系」は“物事の全体について”“知識・理論の全体”
となっており、“全体”であることが特徴です。
「基本」はそれらとは異なります。
“全体”ではなく“大もと”です。他の3つの言葉とは別のことを意味しています。
“よりどころとする大もと”
が「基本」です。
“よりどころとする大もと”
である「基本」の書。
「基本書」だけですべてを理解できなくても、わからない部分は他の本に飛んでいって、理解したらまた「基本書」に戻ってくる、基地のようなイメージを持ちました。
「概説書」「体系書」「教科書」は“全体”であることが特徴で、全体像や学問の体系を示すものなので、いずれも“よりどころとする大もと”になることができます。
「概説書」「体系書」「教科書」の中から「基本書」に選ばれる、という関係性です。
“基地のようなイメージ”
を持ったと書きましたが、そのイメージからすると、
基本書に枝葉末節まですべて書いてなくても、基本書を見れば枝葉があることを思い出すことができればいいということが言えます。
ある問題があったときに基本書を見ることで何を調べるべきかがわかればいい。何を調べるべきかがわかれば、そのことを書いてある本に飛んでいけばいいのです。
その点、学部生が試験問題を解くときも、学者が研究課題に向き合うときも、実務家が事件に対処するときも、同じではないかと思います。
まず各々が各々の基本書を見て、そこから当該課題において何を調べるべきなのか、あたりをつけるところから始めるはずです。
この2つ、
- 「概説書」「体系書」「教科書」の中から「基本書」に選ばれる、という関係性であること、
- 基地のようなイメージである(基本書に枝葉末節まですべて書いてなくても、基本書を見れば枝葉があることを思い出すことができればいい)こと
を得たところで、仮説に戻ります。
1.全体を網羅して筋が通っている(体系立っている)
2.論点、争いのある個所が網羅されている(判例・通説が明記されている)
3.何度も読み返すことができる(コンパクトである)
4.現行法対応・重要判例がフォローされている(改訂が続いている)
「基本」とは何かを調べたことで、
1は「概説書」「体系書」「教科書」といわれるものが「基本書」になれるという関係性であることがわかりました。この意味で「注釈書」も「基本書」になれます。
1が前提としてあって、2.3.4.のバランスをどうとるか基本書の選び方は変わってくるということになりそうです。
特に、“2.判例通説の明記”と“3.コンパクトであること”は、
二者択一の関係になりやすく、何を基本書とするかの分かれ道といえます。
自分の実務にとって大切な分野であれば(日野)が“辞書的”とした大著であっても何度でも読み返す「基本書」となるし、自分の実務とあまり関連のない分野であれば(日野)が「基本書」とした“コンパクトの凝縮”なものでも“辞書的”となります。
このあたりの相対的な感じが、「概説書」「体系書」「教科書」と「基本書」の違いでしょうか。
前三者はその書物の型というのか、「教科書」は概ね誰にとっても「教科書」であって、絶対的なもの、「教科書」というフォーマット・形式だと思います。
対して、何を「基本書」とするかはひとそれぞれ、相対的です。
相対的であるからこそ、基本書論争(どの本を基本書とするか)があり、終わることがないのだと思います。
–次回につづく–