【0156】読解力の向上に資すること、その手がかり  5 of 8

21-読解する技法

–前回までのあらすじ–

「読む」ということを深掘りするのであれば現代文読解に進めばいいところですが、ひと呼吸おき、まず俯瞰・鳥瞰。分析の基本「大きさを考える」のうち“全体としての大きさの程度をおおまかに把握”することを「風呂敷を広げてみる」ということとして、風呂敷のひとつめは「読む」の位置づけ、

「読む」の位置づけというと、まず「読む」はこの四技能のひとつに位置づけることができ、このほかにどういうグループがあって、そのとあるグループのなかで「読む」はどのように存在するのかを考えることで「読む」の本質に迫ろう、という営みです。

 

「読む」の【意味】【反対語】を考え、「読む」の対が「書く」であるとして進めていくと、「読み」は「読み書きそろばん」という3つのなかのひとつと位置づけることもできそうだとなり、「読み書きそろばん」の意味を調べてきました。

ここで「読み書きそろばん」というときの「そろばん」とは何か?をさらに深追いしていきます。

ここまでの流れで行くと「計算すること」となりますが、

 

まずはいつもどおり国語辞典を見てみますと、旺文社国語辞典が最も端的で、

“そろばん【算盤・十露盤】①古くから中国・日本で使用されている、枠の中のくしざし状の玉を上下させて計算する道具。②計算。勘定。<松村明他『旺文社国語辞典』>”

とあります。他の国語辞典でもこの範疇をでません。

 

 

ここで(一般的な国語辞典とは)別の辞典を引きます。初登場『日本語大シソーラス』です。

この『日本語大シソーラス』がどういう物か、【0151】山口翼 編『日本語大シソーラス』を読む で紹介しました。

【0151】では「そろばん」を引いてみて、結果“計算”という言葉が出てきたり“シュレッダー”という言葉が出てきました。

普段生活していて「そろばん」と聞いたときに、「計算」は連想されやすいものですが、「シュレッダー」はなかなか出てきません。

このような、普段なかなか結びつかない言葉がつながるところにこの『日本語大シソーラス』のおもしろさがあり、ひとつの言葉から他の言葉を連想するときには、『日本語大シソーラス』が他に比べる物が見当たらないほどに、役に立つということを書きました。

 

さて本題に返って、
国語辞典を見ると“そろばん【算盤・十露盤】①古くから中国・日本で使用されている、枠の中のくしざし状の玉を上下させて計算する道具。②計算。勘定。<松村明他『旺文社国語辞典』>”とあり他の国語辞典でもこの範疇をでないところ、『日本語大シソーラス』で「そろばん」を引いてみます。

 

索引の箇所で「そろばん」を探し、「そろばん」「そろばんがあう」「そろばんがたつ」…と並んでいるなかから3つめの「そろばんがたつ」の下位には「才能・名人/知力/物に通じている/商売上手」とあります。

このなかの「知力」に目が留まりました。

 

ここでいつもの国語辞典に戻ります。

“【知力・智力】知恵のはたらき。知的な能力。<松村明編『大辞林』>”

 

知恵はどうか。

“【知恵・智慧・智恵】②事の道理や筋道をわきまえ、正しく判断する心のはたらき。事に当たって適切に判断し、処理する能力。<松村明編『大辞林』

 

こうして「そろばん」から「知力」が導出され、「知力」から「知恵」につながります。

 

その「知恵」はというと、“事の道理や道筋をわきまえ”その上で“正しく判断する”ということができます。

このなかの“事の道理や道筋をわきまえ”は「理解する」、“正しく判断する”は「理解したことを前提に考える」それぞれ言い換えすることができそうです。

 

この「そろばん」「そろばんがたつ」「知力」「知恵」のつながりから、「そろばん」には“(読み聞きして理解した上で判断するために)考える”という意味がありそうです。

 

読み書きそろばん:理解し、考えて、伝える

ここで元の「読む」の位置づけに戻ります。

まず、「読む」は四技能「読む」「聞く」「書く」「話す」のひとつです。
もうひとつ、「読む」は「読み書きそろばん」のなかのひとつでもあります。

 

「読み書きそろばん」という3つを並べたときの「そろばん」を“(道理や筋道をわきまえ=相手の主張を理解した上で)(考えて)正しく判断すること”とすると、

「読む」は、いわゆる「読む」だけの意味ではなく(「そろばん」の前段の意味として)、「理解(読む・聞く)すること」となり、

 

残る「書き」は“(正しく判断した上でその判断/考えを)伝える(書く・話す)こと”を指しているということができるかもしれません。

 

時系列に並べ直すと、「理解し、(理解した上で)考えて、(考えた自分の主張を)伝える」となります。
()を除くと、「読み書きそろばん:理解し、考えて、伝える」ということです。

 

いったんまとめると、読み書きそろばんというのは、

一般的には、“文字を読んだり書いたり計算する日常の技術/技能”であり、“読むこと、書くこと、計算することの三つは、世の中で生活していくうえでぜひとも必要なもの”という意味で認識されていると思いますが、その表面的な意味だけでなく、

「理解し、(理解した上で)考えて、(考えた自分の主張を)伝える」という“社会生活をする上で最低限必要な、コミュニケーションの技能”をいうのかもしれません(ここで“”内は山田忠雄他『新明解国語辞典』における【読み書き】の説明文を(日野)の意図に沿って書換えました)。

そして、この「理解し、(理解した上で)考えて、(考えた自分の主張を)伝える」という“社会生活をする上で最低限必要な、コミュニケーションの技能”こそが、「読み書きそろばん」という慣用表現の本質を現しているのかもしれません。

–次回につづく–

21-読解する技法


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